H.C.R.2011 ビジュアルデザイン
人が絵画と出会うとき、画から何かを感じ取ったり、問いかけたりして楽しむものだとしたら、この画とはどんな対話が生まれるでしょうか。
本年のポスターは、抽象画です。「表現したいヴィジョンは…(中略)…速度、力感、流れ、光、リズムとメロディ、音、風」「どこまでも疾走して、停滞することのない速度感にあふれたイメージの世界」「その線は失速や亀裂を嫌う人間の繊細さそのものと言えるかも」「その繊細さをどうやって弱さを感じさせずに表現するか」※ この画の作者、競輪のトップ選手にまで登りつめ、その後パリで画家としても大成した異才、故・加藤一さんご自身の言葉です。肉体が生みだす極限のスピードの中で生きてきた、彼ならではのヴィジョンを、強烈なエネルギー、生への強い渇仰を、この画との対話で感じとってください。その中で、生きることと福祉の関わりのヒントを少しでも見いだすことができたなら、などと願って制作いたしました。
※「風に描く 自転車と絵画」加藤一著 文藝春秋 刊 より抜粋
(韓祐志:ポスター担当アートディレクター)
加藤 一 1925-2000
繊細な色彩とフォルムを求めて・・・
20世紀後半をパリで生きた「光と風」を描く日本人抽象画家
1925年、東京は神田生まれの江戸っ子。
若かった頃は、国体の自転車競技で数々の優勝を果たし、ヘルシンキ五輪の日本代表候補に。
生家の窮乏を救うためにオリンピックへの出場をあきらめて転身した競輪の最強選手として活躍。
1958年にフランスへ渡り、小さい頃から夢だった画家の道に踏み込み、今度は画業に情熱を注いだ。
繊細な切れ味で色彩とフォルムを追求し、「光と風」を描くパリの日本人画家として各方面から賞賛される。
その作品は、フランス、日本を中心として世界各地の多数の愛好家のコレクションに収集されている。
2000年にパリで死去、モンバルナス墓地にて永眠。